1  天智天皇  秋の田の かりほの庵(いほ)の  苫(とま)を荒み わがころも手は 露に濡れつつ
 5  猿丸太夫  奥山に もみぢ踏み分け 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋は悲しき
 6  中納言家持  かささぎの 渡せる橋に 置く霜の 白きを見れば 夜ぞふけにける
 9  小野小町  花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに
 12  僧正遍昭  あまつ風 雲のかよひ路 吹きとぢよ をとめの姿 しばしとどめむ
 17  在原業平朝臣  ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは
 21  素性法師  いま来むと いひしばかりに 長月の 有明の月を 待ちいでつるかな
 23  大江千里  月見れば ちぢにものこそ 悲しけれ わが身ひとつの 秋にはあらねど
 26  貞信公  小倉(おぐら)山 峰のもみぢ葉 心あらば 今ひとたびの みゆき待たなむ
 28  源宗干朝臣  山里(やまざと)は 冬ぞ寂しさ まさりける 人目も草も かれぬと思へば
 31  坂上是則  あさぼらけ 有明(ありあけ)の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪
 33  紀友則  ひさかたの 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ
 38  右近  忘(わす)らるる 身をば思はず ちかひてし 人の命の 惜しくもあるかな
 57  紫式部  めぐりあひて 見しやそれとも わかぬまに 雲隠れにし 夜はの月かな
 62  清少納言  夜(よ)をこめて とりのそらねは はかるとも よに逢坂の 関は許さじ
 67  周防内侍  春(はる)の夜の 夢ばかりなる 手枕(たまくら)に かひなく立たむ 名こそ惜しけれ
 81  後徳大寺左大臣  ほととぎす 鳴きつるかたを ながむれば ただ有明の 月ぞ残れる
 88  皇嘉門院別当  なには(わ)江(え)の あしのかり寝 のひとよゆゑ 身をつくしてや 恋ひわたるべき
 89  式子内親王  玉(たま)の緒よ 絶えなば絶えね 長らへば 忍ぶることの 弱りもぞする
 93  鎌倉右大臣  よのなかは 常にもがもな なぎさ漕ぐ あまのを舟の 綱手かなしも
 97  権中納言定家  来(こ)ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに やくやもしほの 身もこがれつつ
 98  従二位家隆  風(かぜ)そよぐ ならの小川の 夕暮は みそぎぞ夏の しるしなりける